(4)ニューヨーク [2002春NYオペラと美術の旅]
4/17(水)
この日も晴れ上がった空、そして季節外れの猛暑の一日でした。留守宅では日本のTVでもニュースになってるとのことです。さて、この日はフリック・コレクションとホイットニー美術館の予定なので、暑さにもめげず出かけました。昨日と同じに72丁目からバスでセントラル・パークを横断して、まずはフリック・コレクションへ。美術館の玄関は簡素ですが内部は素敵な雰囲気、ガラス天井のガーデン・コートも設けられた新古典主義様式の瀟洒な邸宅が美術館になっています。
☆フリック・コレクション
19世紀に鉄鋼産業で巨万の富を成した実業家のヘンリー・クレイ・フリック の遺産をもとに公開された世界屈指のプライベート・コレクションとして知られています。元はフリック一家の住まいとアート・ギャラリーを併設した三階建ての豪華の住まいで、インテリアも価値あるものが揃っています。
ここで見逃せないものはフェルメールで、まだ現在のようにブレークする前に手にいれたと思われる作品を3点収蔵しています。
↓フェルメール「士官とほほ笑む女性」(1655~60)50.5×46
↓フェルメール「中断されたレッスン」(1660頃) 39.3×44.4
↓もう一点は「婦人と召使」( 1670頃)92×78.7ですが、
3点ともアムステルダムやデン・ハーグで観たものより印象が薄く、ささっと観てほかの展示室へ。ガーデン・コートの回廊にルドンのパステル画「花瓶の花」とアングルの「ドーソンヴィル伯爵夫人」にうっとり。
そして、館内でもメインのリビングホールにはホルバインやエル・グレコが暖炉の上を占めていて、振り返るとジョバンニ・ベッリーニ!
↓G・ベッリーニ「荒野の聖フランチェスコ」(1480~85頃)124.4×141.9
中期の最高傑作のひとつ。聖人の背後に広がる風景の描写に圧倒されます。修復後間もないようで、油を流したようなきらめく色彩感が凄すぎる~。
そしてピエロ・デッラ・フランチェスカの作品もここにあるのです。見逃してしまいそうな奥まった小さな展示室に
↓ピエロ・デッラ・フランチェスカ「福音書記者聖ヨハネ」(1454-1469頃)131.5×57.8
目の高さに岩に立つ聖人の足が・・・その質感や光の絵画表現、土まみれの足に何故か心打たれました。聖人の信仰の深さだけではなく、普遍的な人間の足として美しい。同室にある「磔刑図」とともにサンセポルクロのサンタゴスティーノ聖堂のために描かれた祭壇画を構成していました。解体された聖人たちの図は各地(ロンドン、ミラノ、リスボン)に分散 。中央にあったはずの聖母子は失われました。
↓「磔刑図」は失われた中央の聖母子の真下(プレデッラ)に位置していたと考えられています。
↓ホイッスラーの上流階級の夫人たちを描いた夢のように美しい2枚の肖像画
次はフリック・コレクションからも徒歩数分のホイットニー美術館へ(2014年に移転)。あのユニークな逆階段状の建物は今どうなっているのでしょう。。。と、NETで検索したところ現在はメトロポリタンが8年契約で借り上げ別館として使用してるようです。
ここはボランティアの活動が盛んな美術館のようです。受付で会員か?と聞かれたので、面食らいました。在ニューヨークのマダムに見えたのでしょうか?なんとなく嬉しい私でした。ここはホッパー専用の展示室があります。NYでホッパーを観ることも目的の一つでしたから、MOMAやグッケンハイムも含めて満喫できました。音声ガイド も日本語があり、オキーフの絵のところではオキーフご本人の声を聴きながら(当然ここだけ英語)という体験もできました。
↓ホッパー「線路の日没」(1929)71.8×121.3
↓ベン・シャーン「サッコとヴァンゼッティの受難」(1931-32)242×121
ベン・シャーン(1898-1969)は社会派リアリズムを代表する画家で、上記の作品もホイットニー美術館の中では異彩を放ち、特に印象深いものでした。1920年に起きた強盗事件でイタリア系移民のサッコとヴァンゼッティが証拠不十分にもかかわらず死刑判決を下され社会問題になったケースをシリーズで23点の連作に描いたうちの一枚です。
館内は入場者も少なく、静かな環境で鑑賞できました。 ホイットニー美術館をでて、この近辺はNYでもハイクラスなマジソン・アベニューですから、初ニューヨークでも安心して歩けました。昼食はあまり食欲もなく、1か月前にオープンしたばかりの1階が日本茶のお店2階がお寿司屋さんで生寿司をいただきましたが、日本の価格の2倍はしました。そのうえこの暑さでは着るものもなく、洋服を買うことになり、日本人の店員さんのいるMAX MARAで大出費!涙。とにかく暑くてぐったりでした。3時半にはホテルに戻り午睡。
早速購入したての淡いブルー のレースのブラウスを着て、颯爽とMETへ。3時間ほど昼寝したあとだっだので、つい寝ぼけて切符チェックのお兄さんに「グット・モーニング」って言ってしまって「あ、わ、わ、グット・イブニング~!」言い直して笑われました(恥)。
♪~ヴェルディ『ファルスタッフ』@MET
指揮:レヴァイン 演出:ゼフレッリ
ファルスタッフ:ブリン・ターフェル バルドルフォ:ジャン・ポール・フーシェクール メグ:スザンナ・メンツアー アリーチェ:マリーナ・メシェリアコーヴァ ミセス・クイックリー:ウエンディ・ホワイト
ナンネッタ:リユボウ・ペトローヴァ フェントン:グレゴリー・トゥライ フォード:ドーウエン・クロフト
綿密に造られた豪華なゼフレッリらしい舞台とファルスタッフ役のターフェル以外はあまり感心することはなく終わってしまいました。レヴァインの指揮は去年のパリ・シャトレ座でのガーディナーに較べるとややだれ気味に聴こえて、そのうえ席は1階4列目中央、レヴァインの大きな頭が邪魔でした。
ターフェルのファルスタッフは期待通り、彼の動き、台詞、歌すべてが自然にファルスタッフになりきって見事です。しかし、彼のキャラクターのせいもあるのか、演出なのか、憎めない可愛げのある人物になり、もっと下品でエロ爺のほうが面白かったのかもと、難しいところです。
最後の森の場面、みんなにこずかれて懲らしめられるところでは可哀相になって、心のなかで叫んだ。「ターフェル君を苛めないで~」と。
ターフェル以外の歌手達についてもパリのほうが良かったように思います。D.クロフトは声も演技も渋いし、この喜劇を引き締めている存在感は確かにあるのですが、。一方では少し浮いているとも感じました。他のオペラで聞いてみたい歌手です。D・クロフトは劇場前のポスターにはこのあと5月から『華麗なるギャツビー』に出演予定とか。フェントン役、顔は甘い二枚目だが歌は高音が伸びずいかにも苦しい。それでもカーテンコールではブラボーの嵐・・・?。見た目大事のメトのミーハー度の高さは、噂どおり。拍手のタイミングもやけに早いです。舞台はオーソドックスながらとても立派で見ごたえ充分。特に1幕目2場のフォード邸の裏庭の場面、シェクスピアの生家のような木組みの家を背景に、ジキタリスや百合の生花が咲き乱れるイギリス風ボーダーガーデン、とても綺麗でうっとり。最後の森の場面も広い舞台を生かして巨木を配し、そこにフィナーレでは大勢の子供達の妖精、本物の馬、羊、犬なども登場、METらしく豪華に幕が下り、ターフェルがその時に子供達に微笑んで、とても優しい目をしてて、男は顔じゃないよ的好感度抜群でした。
参考CD:GIUSEPPE VERDI『FALSTAFF』 1993 ミラノスカラ座ライブ録音
指揮:リッカルド・ムーティ オーケストラ&合唱:ミラノスカラ座管弦楽団&合唱団
ファルスタッフ:ファン・ポンス フォード:ロベルト・フロンターリ フェントン:ラモン・ヴァルガス
バルドルフォ:パオロ・バルバチーニ ミセス・アリーチェフォード:ダニエラ・デッシー ナンネッタ:モーリン・オフィリン ミセス・クイックリー:マンカ・ディ・ニッサ ミセス・メグ・ページ :ドロレス・ツェクラー
夜になると少し涼しくなったので、明日は過ごしやすくなるでしょうとホテルへ帰り、夜食は手持ちのもので軽く済ませ就寝。
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